多摩独酌会
report09.18.2005

「長野の美味い酒を堪能する」


いつもの「独酌会」の会場

参加蔵(順不同/敬称略)

「佐久の花」蔵 佐久の花酒造 高橋寿知(杜氏)

「麻輝」蔵 千野酒造場 千野麻里子(杜氏)

「帰山」蔵 千曲錦酒造 木内伸長(課長代理)

「澤乃花」蔵 伴野酒造 伴野貴之

「翠露」蔵 舞姫酒造 土橋潤二(代表取締役)

「大信州」蔵 大信州酒造(常務取締役)

「美寿々」蔵 熊谷直之(杜氏)

「明鏡止水」蔵 大澤 実(杜氏)

「夜明け前」蔵 小川友樹(蔵人)

今回の「独酌会」は、長野県のお蔵の美味しい酒を堪能する勉強会。日本酒業界も斜陽産業と言われて久しいが、長野県には今尚120場を越えるお蔵が酒を醸している。全国でも有数の「日本酒」県だ。

が、正直言って長野のお酒で思い浮かべるのは、恥ずかしながら「佐久の花」「真澄」「翠露」くらいで、他のお蔵さんは馴染みがない。更に、好んで飲むのも「佐久の花」くらいで、ふだん長野の酒を飲むことは余りない。さすがに、今回参加されたお蔵の酒は、「澤乃花」以外は飲んだことがあったが、白状すれば余り記憶に残っていなかった。

同点1位「美寿々」(みすず)の熊谷杜氏

普段飲まないことに疑問を持ったことはないが、せっかくこれだけの数の長野の酒が揃っているのだから、「何故、普段飲まないのか?」を今回の利き酒のテーマに臨んだ。

ブラインドで40種類、独酌会では少ない方。参加人数もいつもより少ない感じで、一通りの試飲は1時間足らずで終わった。一巡目で気になったお酒を再確認しに行く、すると「何かさっきと違う」。温度が上がったためか、老ね香を感じたり、もっさりとした印象のお酒がある。

同点1位「麻輝」の麻里子杜氏(右)と、今回は一般参加の「松の寿」蔵の松井杜氏。二人は、東京農大の同級生(2次会での2ショット)

これが、一発勝負の試飲会の恐ろしいところで、大体こういうお酒は「無ろ過生」である事が多い。某お蔵さんも「無ろ過生原酒は、必ず生老ねが出る。冷蔵保存していても避けられない。だから蔵としては、本当は無ろ過生原酒は出荷するのが恐い。酒屋さんや料飲店さんには、少しでも生老ねが抑えられるように冷蔵保存をお願いしているが、冷蔵庫の扉は一日に何回も開け閉めするので、温度が上がるため生老ねが出てしまう。蔵で冷蔵保存していても6月くらいから、生老ねは出ている」と言っていた。

それでも「無ろ過生原酒」を造らなくてはならないのは、「(普通の酒だと)消費者が買ってくれない」から。今回の、人気投票の結果を見ても、それは否定できない。また、消費者の中には「生老ね好き」が、かなりいるのだと言う。「老ね嫌い」の僕には信じられないのだが、「これが米の味」だと喜んで飲まれる方が多いそうだ。これも、好みだから人それぞれと言うしかないが、僕は「無ろ過生原酒」は、5月までのお酒だと思っている。

僕のお気に入り、「大信州」蔵の田中常務

「無ろ過生」は、味が濃くパンチがあるので冷えているときは、一口飲んで「美味いなー」と感じる。しかし、時間が経つにつれて温度が上がると、香りが劣化し、味もだれてくる。でも、冷えているときの一口目は美味いから、こういう試飲会では上位に来る事が多い。今回も1位は全て「無ろ過生」だった。

ちなみに、ブラインドでの投票の順位は下記の通り。

1位「美寿々 純米吟醸無ろ過生」「麻輝 純米吟醸」「麻輝 吟醸」「佐久の花 純米山田錦無ろ過」
2位「大信州 香月純米吟醸」「ダイヤ菊 純米吟醸袋吊山茱萸」
3位「明鏡止水 特吟ひやおろし」「佐久の花 純米吟醸無ろ過」

僕は、「大信州 香月純米吟醸」「翠露 純米吟醸雄町中取しずく」に「○+」、「夜明け前 純米吟醸生一本ひやおろし」「大信州 別囲い純米吟醸ひやおろし」「大信州 別囲い純米大吟ひやおろし」「翠露 純米辛口秋あがり」に「○」をつけた。一夏越して味の乗ったひやおろしに「○」が多かったので、自分の感性もまだまだ捨てたものではないなー。

1位の「美寿々」蔵さんは、戦中戦後の軍事統制で活動を停止していたが、昭和30年から復活した。熊谷杜氏(代表取締役社長)の造りの基本は、「麹をしっかり造って麹の力で米を溶かしたバランスの良い酒」を目指している。僕は、「純米吟醸無ろ過ひやおろし」が柔らかな酒質で好きだった。

千野麻里子杜氏と「麻輝」

同点1位の「麻輝」蔵の麻里子杜氏は、東京農大の同級生だったご主人と参加。確か、長野県では唯一の女性杜氏だったと記憶している。独酌会には2年位前に参加されていて、その時も1位だった。千野酒造は、川中島にある1540年の創業で日本で7番目に古いお蔵。川中島の合戦よりも古いから、信玄公も飲んだのかも知れない。代々「女系家族」だそうで、彼女もそうだが婿養子を迎えつづけていた。だが、彼女のお父さんが実に二百ん十年ぶりに生まれた男の子だったとのこと。

長野オリンピックの時に蔵の真中を道路が通ることになり、蔵を移築した。それが、現在の外観が総ガラス張りのモダン建築。僕は彼女のセンスなんだろうなー、と思っていたら「私は白壁の瓦屋根のお蔵が良かったので大反対したけれど、父が依頼したデザイン事務所の建築家は、同じようなものばかり持って来るので、中身は伝統的な造り酒屋なので中身を見てくれれば良いと妥協したんです」とのこと。更に、「やはり、千野家は女系じゃないと駄目みたいです」。

今回出品した「麻輝」は、全て「無ろ過生原酒」だったが、今後は「バランスの取れた食中酒も目指したい。食事と共に何杯でも飲めて、食後にはお酒だけでも美味しい無ろ過生原酒を飲んでいただけたら嬉しい」と抱負を語っていた。

「おかげさん」チームでの参加者。右の女性は、余りの勢いに手振れしてしまった・・・。

「独酌会」では、多くのお蔵さんとお話させて頂くが、中でも「佐久の花」の高橋専務や、「天青」蔵の五十嵐杜氏には多くのことを教えて貰っている。今回も。高橋さんと「長野特集」なのに何故かいる五十嵐杜氏と、2次会では話し込んだ。僕は、長野の酒と言うと、アルプス酵母を使用した香りの高いお酒というイメージを持っていたが、高橋さんから「それは認識不足で間違い。最近の酵母の中では、アルプスや協会9号は香りが少ないタイプ。明利酵母や花酵母に比べたら3分の一程度」と諭された。確かに、今回利いた酒に立ち香は少なかった。

「佐久の花」高橋杜氏

「ただ、アルプス酵母はリンゴ酸が高くなるので、果実っぽい味がする。それをフルーティーと感じるのかも知れない」(高橋さん)とのことで、確かに含み香や後口に爽やかな甘味を感じるお酒が何点かあった。米の旨みも感じるが過剰ではなく、後口が綺麗なお酒が多かったように思う。ただ、爽やかさの反面で「多酸」のお酒が多い。僕は、酸が苦手なので、長野県のお酒を飲まないのは、この辺に理由があるのかも知れない。

高橋さんとは、「原料処理のこと」「米のこと」「火入れの事」「普通酒のこと」「三増酒のこと」「ヤコマンのこと」「山廃造りのこと」「炭(活性炭)のこと」「熟成香と老ね香のこと」等々、2次会の間中ずーと話していた。とても、全部は書ききれないし正直メモを取っていなかったので覚えていないこともある。その中で、消費者の無知というか無理解が、わざわざ蔵元にまずい酒を造らせている、と思ったことがあった。

独酌会の最後に、ジャンケンで勝った人や希望者に残ったお酒を持ち帰ってもらうのだが、嫁入り先がなかったお酒が残ることになる。そんな一本を二次会で口にして、正直とても飲めたお酒ではなかった。純米酒だったが、老ね香がきつくて香りだけで飲みたくなくなる。味もくどくて、苦味・渋味が老ねた後味の悪いお酒だった。

このお酒も「絞りたての時は、こうではなかったはず」、と高橋さん。タンク火入れで一夏越して、バランスの取れたお酒になったところで、「炭を使った」からこういう酒になったのでは、とのこと。素人の僕には、バランスの取れたお酒を何故わざわざ炭を使って、悪い酒にしてしまうのか疑問だったが、高橋さんの答えは明確で「色の付いたお酒にクレームがくるから」。

秋あがりの純米酒だから黄金色に輝いている、それが当たり前だと僕は思う。そもそも、絞った時も緑がかった黄色なのだから。しかし、清酒とは「透明な酒」だと思っている消費者が多いため、炭を使ってわざわざ透明にしなくては売れないのだそうだ。タンクの中で、バランスが取れている酒に炭を使を使うことでバランスを壊してしまうため、「とても飲めない」お酒になってしまう。消費者が、もっと日本酒のことを知っていれば、色が付いたお酒にクレームが来ることもないと思うのだが、残念ながらこれが現実なのだそうだ。

今回の「独酌会」は、山形県に続く「一県堪能シリーズ」の第二弾だった。同一県でも、やはりお蔵さんの個性と言うものはあるから、いろんなお酒があって楽しめた。今回は、恵比寿の「酒亭 和」の亭主をお誘いして参加したのだが、楽しんでもらえたのか、少々不安だ。今度、店に行ったときに聞いてみよう。次回は、11月。そして、来年からは年3回開催になる。予約が大変そうだ。

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